京大助教中野剛志氏はTPPは日本の利益にならないと主張している急先鋒だ。
(http://www.youtube.com/watch?v=nRmNJpUj5sI)
その根拠は
●全てのTPP参加国から見て日本市場は大きな輸出先である。
●他方日本から見てTPPの参加国の多くは、それ程大きな市場では無い。
●唯一巨大市場のアメリカと相互に関税を全廃しても、アメリカのドル安政策で日本は輸出を増やせない。
よって日本はTPPによって輸出を増加できないばかりか雇用を失い、また農業も廃れ取り返しのつかないことになると結論づけ危惧をしている。
しかし巨額の対外純資産を蓄えている日本こそ、大いに消費を楽しむ権利があるとも考えられるし、将来労働力人口の減少が確実なのだから海外に任せた方が生産性が高い物資は輸入に切り替えるべきではないか。
以下に反論を上げてみる。
■そもそも輸入も増やさなければ、円高が進行してますます輸出が困難になる
これまで日本は30年以上にわたって経常黒字を保っている。そのため円高が止まらず輸出のハードルは高くなる一方である。円相場が上昇する度に工場の海外移転やその下請け企業の廃業など、外貨を稼いだり納税をする「優良な雇用」が危機を迎える。それが過去から現在に至るまで日本の経済の大きな悩みである。
為替相場を安定させるための根本的な解決は経常収支を均衡させること、日本の場合は結局輸入を増やすしかない。
何を輸入するかは政府が決めるのではなく、関税をはじめとした貿易障壁を全廃したうえで個々の経済主体が選択できる権利が認められるべきだし、それが最も効率が良い。
■関税撤廃は小国相手からでも構わない
日本と比べて経済規模の小さい国が相手でも、互いに関税の無い公正な取引環境が構築できるならそうすべきだ。
当初は日本の輸出はそれほど増えないかもしれないが、小国が日本相手に利益を実現していけば、より大きな別の国が貿易障壁の相互撤廃に参加する動機になるだろう。(韓国がFTAを進めている傍らで、日本が焦っているのと同様なことが起こるはずだ)
なおTPPの参加交渉がTPP参加国以外とのFTA交渉を阻害するものではないだろうから、TPP参加国以外の大きな市場を持つ国と自由貿易交渉を同時に進めてもいいではないか。
■いつまでも輸出超過で巨額のドルを保有しているのは危険
中野氏はTPPについてアメリカ側が輸出を増やすこととは日本にとって損と考えているようだ。しかし、そうとばかりも言えない。
日本は経常黒字にもかかわらず円高を阻止しようとして為替介入を度々実行してきた。その結果、政府は約80兆円相当のドル建資産を保有することとなった。既に政府は過去の介入後の円高ドル安によって含み損を抱えているはずだし、恐らく今後もドルの価値は下落の一途でドル建資産の保有は危険を伴う。
そうならば、米国債を買って保持するよりアメリカから必要な物を買った方がいい。勿論それは為替介入より円高を止める有効な手段でもある。
■輸入を増加させて日本の少子高齢化社会を乗り切るべき
中野氏の危惧は雇用の減少だ。TPPが実現したら農業分野に限らず様々な国内の産業が淘汰に遭うに違いない。確かに仕事を失うことによる個人への悪影響は極めて大きい。
ただし日本は今後21世紀半ばまで急速な高齢化を迎える。総人口に占める生産年齢人口(15~64歳)の割合は2050年までに約60%から50%程度に低下すると推定されている。既に現在でも肉体的にキツイ不人気な労働は外国人を日本国内に連れ込んで当たらせているし、将来さらに人手不足が深刻化する可能性がある。長期的に日本が必要としているのは雇用増加ではないのだ。
慢性的な人手不足なら、儲からない商売や国から補助金を受けている事業から生産される商品は輸入品に取って替わるのが望ましい。ここはやはり自由貿易による競争で企業の淘汰を進めるべきである。
■農業を特別扱いする必要は無い
農産物の関税撤廃によって日本国内の大部分の農家が壊滅的影響を受けることを心配するのは、中野氏だけではない。日本の食料自給率がさらに低下すると、いざというとき食料の確保が難しくなるとというのが農産物輸入自由化に対する典型的な反対理由だ。
食料の確保が心配になる気持ちは分かるが、もともと全国民に必要なカロリーを用意する能力が無いコメ農家・小麦農家を当てにするより外国から格安の穀物を政府が備蓄してくれた方がずっと安心確実ではないか。
民主党は農家を始めとした第一次産業に総額1.4兆円の戸別所得補償をするとマニフェストに掲げている。毎年それほど配るくらいなら、同額で全国民が一年間飢えを凌ぐ分の穀物を外国から輸入して備蓄できそうだ。毎年続ければ数年分蓄えられる。
■日本はお金持ち、買い手の立場 決して不利ではない
もし中野氏の見方同様アメリカを始めとしたTPP参加表明国が日本への輸出が輸入を上回ると目論んでいるなら、それこそ日本は強気で交渉に向かうことが出来る。日本は彼らが望む雇用や外貨を提供する側なのだから。
TPPが形作られていく過程でそのルールが日本にとって到底受け入れられないものなら、交渉の途中で参加を取りやめ二国間のFTA・EPA交渉に重点を戻してもいい。ルール作りの交渉を始める前から日本は損すると決めてかかる理由はない。
日本は長く貿易立国として繁栄してきたのであり、またTPP参加によって国家主権を放棄するのでもない。日本全体では何ら自由貿易を恐れなくていいのだ。