TPP(環太平洋戦略的経済協定)を巡って様々な意見がある。
その中でブロガーの藤沢数希氏が「輸入関税だけを一方的にゼロにしても自国民は潤う」と題して輸入関税の撤廃を主張している。(『金融日記』http://agora-web.jp/archives/1133700.html)
その中で藤沢氏は「多くの人が気づいていないだけで、TPPにより利益を得る人の方が圧倒的に多い。だったらすぐさまTPPに参加を表明し、交渉なんかせずとも輸入関税を全部廃止してしまえばいい。」
とまで断言している。
藤沢氏の記事によると、日本へ輸出をした外国人は日本円を受け取ることになり、いずれ日本の製品を買う。「日本の国内でしか使えない日本円を持っていてもしょうがない
」から。また日本政府が国債を発行して回収できるとも言っている。
しかし日本にとって輸入が必要な物資を全て外国人が出向いてきて販売するとは限らない。必ず日本円で決済する訳でもない。例えば石油なら日本の会社が産油国へ出向いて開発にまで携わって手に入れる場合も多々ある。決済もドル建てではないだろうか。
藤沢氏の主張だとまず外国人が物を現地の通貨で売ってくれて、その後現地の通貨を現地の物と交換することになるという大筋である。
そして外国人が日本から買いたい物が全く無いあるいは国際的に通用する通貨での取引でないなら、外国人は日本に輸出などしないはずという。
藤沢氏の論が成り立つのは、前提として現状の日本のように輸出産業や海外投資が盛んで経常黒字の状態であることが大前提である。
では日本が経常黒字を永遠に計上できるかといえばそんな訳は無く、これまで同様多大な苦労が結実してこそ黒字が出るのである。
仮に藤沢氏の主張のように日本の輸入関税を撤廃する一方で、日本からの輸出のみに関税が残っていたとする。その状態で日本の輸出産業と競合する国が輸出輸入両方向で関税が掛からない条件を獲得したなら、日本の輸出産業は明らかにハンデになる。代わりに日本の競争相手が不当な利益を得る。
経常黒字が長い間続き円高に苦しんでいる企業も少なからず存在するので、藤沢氏の主張するような一方な輸入関税の撤廃をしてもあまり問題は表面化しない。むしろ円高が早急に是正されるだろう。
ただ長期的な視点では売れるものがあってそれに応じた分だけ買うことが出来るのだから、輸出企業にとっても不利にならない条件を交渉で引き出しておくべきではないだろうか。
もし日本が経常赤字に転じて貿易相手へ関税引き下げを求めても、相手国内の利害関係者が抵抗して易々とは応じてくれまい。