東日本大震災の復興事業で小学校の校庭が仮設住宅の建設に使用されることを憂慮し、私有地を無償提供するという話がニュースになった。無償提供に名乗りを上げたのは善意から出た行動だし、当局や仮設住宅の取得を望む人にとって無償で選択肢が増えるので有難い事に違いない。
しかし、そもそも事前に地震や津波に強い街作りが出来なかったのは土地の所有者たちが早期にその権利を手放さなかったのも大きな原因ではないか。
■住宅が手に入りにくい根本的な理由
東日本大震災の津波に住宅を流された被災者に限らず、一般的に住宅を手に入れにくい原因は有効に利用されなくなった不動産の貸借や売買が活発に行われていないことだ。
ある人は先祖代々受け継いできた土地だからと言う理由だったり、かつて暮らしていて「思い出が詰まっている」と言う訳で利用されていない物件でもなかなか他人に譲り渡さない。また裕福な立場で、希望の値段が付くまで不動産の処分を先送りに出来るなんて人もいるだろう。
不動産の賃借人の地位が強く保護されている現状も、「不動産を一度貸したら返ってこない」と危惧されて賃借人の求める賃貸物件の供給を減らしてしまう皮肉な結果を招いている。
いずれにせよ、過去から引きずっている家系本位の土地への執着が新たに不動産を必要としている人たちに対する障害となっている。この状況を放っておけば「土地持ち」の家に生まれた者とそうでない者の格差を助長しかねない。土地の有効利用の前には、土地に対する個人的感情は否定されるべきだ。
東日本大震災からの復旧にさしあたって必要な仮設住宅の建設用地の取得のほか、被災地を津波から逃げ易い街に変えていくには不動産の所有者や占有者の権利を取り上げることが避けられないだろう。より具体的には高台の土地の強制収用、そして低地にある住宅からの立ち退きの必要性が上げられる。
■国にあれこれ要求する前に自ら用意すべき
被災地の首長達は国に対して瓦礫の撤去に始まり、仮設住宅の建設、被災企業や住宅ローンを抱えた人の借金の棒引き、そして村井嘉浩宮城県知事に至っては東北地方への首都機能移転まで求めている。
彼らが国のお金即ちほとんど他人の納めた税金を頼りに、以前の街並みや産業に戻そうと考えているなら賛成できない。被災地の以前の状態とは津波に対し脆弱であり、人口は衰退しつつあったのだ。他人から見れば投資する価値が低い。
それでも再興を望むなら津波に耐える街作りの為せめて土地に関わる権利ぐらいは、被災者達が提供して然るべきではないか。