国内の畜産業を保護することで誰に利益があるのか

10日、日豪EPA締結交渉が合意の無いまま終了した。日本政府はコメ、牛肉、小麦、砂糖そして乳製品を関税撤廃の例外とすることを主張する一方で、オーストラリア政府はコメ以外の例外を認めなかった。
いったい日本が牛肉や乳製品を生産する国内の畜産業者を温存しておく意味などあるのだろうか。

第一に食料を選ぶ消費者の立場からすると外国産品を高率の関税で価格を引き上げられるのは、始めから自分の好みに合う商品を選択する機会が奪われていることになる。
そして政府の関税収入額は、おそらく畜産業界に対する補助金相当にしかならず国民の為になっていないのではないか。

価格や品質の話を脇に置いても、国内の畜産業者が特に食肉の安定供給に役立つのとは思えない。過去に狂牛病など外国産の肉について問題が生じたこともあったが、一部の国の危機であり、代替の輸入先は存在する。
また国内の家畜も疫病とは無縁で無い。ここ数年国内の一部地域で鳥インフルエンザや口蹄疫が猛威をふるい、たくさんの家畜が殺され埋設された。

家畜に発生した病気をその業者自身や畜産業界だけの努力で克服できるとも限らない。口蹄疫の蔓延では公務員が消毒や死骸の埋設に出動した。またウィルスの拡散を防ぐために周辺では交通規制を強いられた。

国内の畜産業とはいえ、その飼料の大半の供給元は外国に依存している。畜産業者が飼料用作物が育つ土地を囲っているわけではないのだ。だから国際的な飼料需給環境に翻弄される立場でしかない。

そもそも内外の畜産物の供給が途絶えても国民は魚介類で動物性タンパク質を摂取できる。国民の食という観点では肉が常時必須というものではない。

そして畜産業は大量の水と飼料を必要とし、その結果排泄物の処理も馬鹿にならない量であるので自然環境の保護という面からも畜産業の存在は悪影響がある。

詰まるところ国内の畜産業の保護には、国民に負担を強いる面ばかりしか存在しない。食肉の供給元は外国中心にして安くて美味しい肉を享受し、国内畜産業者を廃業するよう仕向けたほうが日本全体の利益に適うのではないだろうか。

カテゴリー: 分類無し タグ: , パーマリンク

国内の畜産業を保護することで誰に利益があるのか への6件のフィードバック

  1. wasting time? のコメント:

    はじめまして。

    ブログ最近読み始めさせていただきました。私とあまりに考え方が近く、しかも理論的にまとまっているので読みやすいです。

    これからも応援させていただきたいと思います。

    たとえば豚は日本では抗生物質を食わせて育てているそうです。豚は人から病気をもらいやすく狭いところで育てるのには適してない面もあるということです。

    もちろん、日本の豚はおいしいとは思いますが・・・。

    海外で生産された豚のほうが安全だという場合もたたあるとのこと。海外から危険な牛肉・豚肉が入ってくると叫んでいる人たちはそういうことは聞いたこともないんでしょうね。

    個人的には廃業に仕向ける必要まではないでしょうが、自然とそうなるならばそれは仕方ないと思います。

  2. 佐藤健 のコメント:

    >wasting time?様

    はじめまして、(ロンドンからの?)ご訪問とコメントをありがとうございます。ただ今日本は憂鬱な月曜日の午前中です。

    「理論的」「読みやすい」とは過分のお褒めです。恐縮です。

    なぜ飼料穀物を大量に輸入してまで、狭い日本で牛や豚など養育しなければならないのでしょうかね。
    他人に負担をかけず、他の土地の利用方法を妨げない範囲で(細々と)営む分には文句は無いのですが。

    wasting time?さんの御指摘の通り、食料は安全かどうかが国民的関心の最大公約数だと思います。そこを政府が厳しく監視すべきです。美味しさは個々の消費者の判断で十分です。
    また他の職業を差し置いて畜産業だけ政府が特別保護してやるのも釈然としません。他の商売同様、お客さんがいなくなったら「店仕舞い」すればいいのです。

    貿易障壁を撤廃して消費者が自由に商品を選択できるようにし、そして疫病対策など畜産に掛かる費用は国民に転嫁しないで全て畜産業界の内側で負担すればほとんど廃業に向かっていくと思います。

    コメントは反対意見も大歓迎です。
    wasting time?さんからも是非忌憚無い言葉を期待しています。
    これからもよろしくお願いします。

  3. 牛乳は? のコメント:

    >内外の畜産物の供給が途絶えても国民は魚介類で動物性タンパク質を摂取できる。

    肉は輸入できますが、牛乳の輸入はコスト的にも賞味期限的にも難しいとされてます。
    上記文面から察するに我慢すればいいということでしょうか?

  4. 佐藤健 のコメント:

    >牛乳は?様

    はじめまして、コメントありがとうございます。

    もし牛乳の国内生産がコストの面で優れているなら、何も酪農業者を特別に保護する必要はありません。「牛乳は?」さんの指摘するコストと賞味期限の問題は、国内の畜産業の保護を撤廃し輸入が自由に出来る環境にしてみることで、はっきり結果が出るはずです。おそらく酪農業界も内心では、関税が撤廃されたら海外産牛乳の低コストかつ高速な輸送が実現するのではと恐れているのではないでしょうか。

    「我慢」について言えば現状の段階で国内の酪農業界はバターの需要の変化に対し対応できていません。消費者は我慢を既に強いられてます。

    記事でも触れましたが、国内生産でも疫病の蔓延を未然に防ぐことは出来ず、その度に多少の我慢をすることになります。

    私が危惧するのは、効率の悪い産業の保護がその他の産業の「お荷物」になり、巡り巡って日本国内の全体の所得が海外の諸国と比べ相対的に低下することです。

    そもそも牛乳の生産とはたくさんの飼料を要し、贅沢な側面を持ちます。所得が低下すると庶民は牛乳の消費を結局我慢するはめになります。

  5. 牛乳は? のコメント:

    素人質問にお返事ありがとうございます。

    輸入自由化すれば、国内か海外か優れている方が残るから、我慢ではなく、
    今の段階ではどちらに転ぶかわからないということですね。

    畜産が足かせなのは事実なのでしょうね。
    今まで十分安い値段で提供されてたと感じますが、残念なことです。

  6. 佐藤健 のコメント:

    >牛乳は?様

    こんばんは。

    「牛乳は?」さんの仰るとおり、畜産に従事している人の苦労は計り知れず、それを第一に想像すれば十分安い値段で提供されてきたとも言えるでしょう。

    しかし他で更に効率の良い生産が行われていたり、もっと「低賃金で頑張って」働く所があるなら、そこから購入すべきだと思います。(それは原則どの産業でも同じです。)

    日本国内の産業は、海外の市場で長らく輸出や投資で儲けてきました。国内産業の保護は、保護から漏れた人に不利益をもたらすだけでなく、海外の企業・労働者に対し不公正な態度です。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です